クレプトマニア

クレプトマニア

この記事のもくじ

1.クレプトマニアとは

クレプトマニアとは、病的窃盗または窃盗症と呼ばれ、精神医学的には国際疾病分類(ICD-10)やアメリカ精神医学会(DSM-V)で診断基準が定められている精神疾患です。

「お金を持っているのに万引きがやめられない」「使う物、欲しい物ではないが万引きしてしまう」「逮捕されても何度も繰り返す」といった状態は、クレプトマニアの可能性が高いです。窃盗した物自体には、それほど関心はなく、使わずに放置していたり捨ててしまったりすることがあります。

一般的な万引きは、「お金がなくて盗んだ」といった目的を持って盗みます。しかし、クレプトマニアは万引きをやめたくても「自分の意思では抑えられない」という状況に陥っているのです。

そのため窃盗罪で処罰されたとしても、精神疾患であるがゆえに適切な治療を受けないかぎり、「盗みたい」という衝動を抑えられずに再び万引きを繰り返すことがよくあります。

2.クレプトマニアの症状や特徴

クレプトマニアは日本語で「窃盗症」、精神医学的には「病的窃盗」と言われている、盗むことがやめられない依存症という病気の一つです。一般的な万引きとは異なる症状や特徴を持っているクレプトマニアですが、他にも認知症や解離性障害などの精神疾患にも間違われたり、合併したりしやすい病気です。

ここでは、他の病気との違いを知るためにもクレプトマニアの症状や特徴について解説します。

考えられる原因・きっかけ

クレプトマニアになる大きな原因には、ストレスや不安、寂しさを感じやすい性格であることが挙げられます。それらの感情を埋めて気持ちを落ち着かせるために、窃盗という行動を繰り返すと考えられています。買い物依存やアルコール依存のように、その行為によって気持ちを満たします。

クレプトマニアになるきっかけとして、過食症や拒食症のような摂食障害や、過度のダイエットなどが背景となるケースが多いと言われています。心身の過度なストレスを発散するために万引きした、その一度の行為が快感となり、ストレスを感じたら万引きをして、気持ちを落ち着かせるという流れを繰り返すのです。

他に考えられる原因として、次のような背景が考えられています。

発達障害

万引きは悪いことだと分かっていても、実感できずに万引きをしてしまう

性犯罪の被害者

被害を受けた被害者が、摂食障害を通してクレプトマニアになってしまう

機能不全家族で育つ

自分の気持ちを押さえつけて生活してきた人が、ストレスを発散するために万引きをしてしまう

クレプトマニアの特徴

クレプトマニアは窃盗に依存してしまい、自分ではとめることができない精神疾患ですが、その行為自体は大きな金額ではないことが多いです。お金が足りなくて盗む利益目的の一般的な窃盗とは違い、お金をもっているのにもかかわらず、盗んだ時の快感を味わうことを目的とした窃盗だという特徴があります。

盗んだ物自体は、本人が欲しかった物というよりも、そこまで必要としていない物が多いといった特徴があります。そこで、自分で使うことはなく、ご自宅に置いていたり捨てたり、中には盗んだ後にお店に返すという行動を取るクレプトマニアの人もいます。

また、窃盗による一時的な快感が忘れられずに繰り返したり、その後に罪悪感を抱き深く反省したりします。しかし、依存症の病気であるため、自分では衝動を抑えられないのがクレプトマニアの特性です。

有病率

アメリカ精神医学会のDSM-5によると、クレプトマニアの有病率は次のように示されています。

クレプトマニアは、万引きで逮捕された人のおよそ4~6% 一般人口における有病率はおよそ0.3%~0.6% 女性と男性の比率は、女性:男性=3:1

とくに子育てや家事を1人で全てこなしている主婦が、孤独感やストレス、家計のやりくりが負担となり万引きに走るケースが多いです。一度万引きをすると、そこで得られるスリルや達成感が気持ち良く、悪いことをしていると分かっていても繰り返してしまうのです。

3.診断基準

クレプトマニアは、アメリカ精神医学会の診断基準であるDSM-5で「窃盗症」と記載されており、診断基準は次の5つの項目が記されています。

個人的に用いるものでもなく、またはその金銭的価値のためでもなく、物を盗もうとする衝動に抵抗できなくなることが繰り返される 窃盗におよぶ直前の緊張の高まり 窃盗を犯すときの快感、満足、または解放感 盗みは怒りまたは報復を表現するためのものでもなく、妄想または幻覚に反応したものでもない 盗みは、行為障害、躁病エピソード、または反社会性人格障害ではうまく説明されない

ここに記載されている基準が絶対的ではなく、もちろん個人差もあります。この基準を参考に、精神科医が問診を行った上でクレプトマニアと診断されます。

クレプトマニアか一般的な窃盗かを判別するためには、逮捕に至ったときの万引きでは診断基準に満たない場合でも、これまで行ってきた万引きの状況も含めて診断していくことが必要です。

不合理な万引きや繰り返す万引きの場合は、クレプトマニアだと判断できる材料になります。

4.クレプトマニアの治療方法

一般的な窃盗の場合は、逮捕されて処罰を受けることで改心するケースがありますが、クレプトマニアの場合は治療に専念できる環境が必要となります。

クレプトマニアの治療方法は、認知行動療法を中心として行います。認知行動療法とは、ご本人の「物事の捉え方や思考」と「行動」に着目し、少しずつ自分の抱えている問題を理解していくことで、窃盗の他にどう対処できるか考えていく心理療法です。

担当する医師により治療内容は異なりますが、以下の3つの方針のもと治療を進めていくことになります。

通院・デイナイトケア

クレプトマニアは「盗む」ことを生活の中で最優先させています。そこで、通院とデイナイトケアにより盗む必要がない生き方が出来るように学んでいきます。おおよそ1週間のプログラムが決まっており、9時~19時はデイナイトケアで同じ問題を抱えた仲間とともに活動します。

活動中は、仲間に自分のありのままを受け止めてもらうことで、人間関係を再構築できます。そのような経験を重ねることで、少しずつ抱えていた問題や生きづらさに気付き、窃盗をしない新しい生き方に変わることを目指しています。

再発防止

再発防止とは、窃盗に至るきっかけや状況などをご本人に考えさせ、どうすれば回避できるのか対処方法を明確にしていく方法です。実際に自分が窃盗した状況を思い出し、何が引き金となったのか、どのような思考だったのか言葉で表現します。そして、「窃盗にスリルを味わう、快感」という認知が歪んでいるということ気付かせるのです。

その結果、ご自身で解決方法を考えることができ、窃盗を引き起こす可能性がある状況を回避して生活できることを目指しています。

自助グループ

自助グループは、共通の問題を抱えている当事者同士が集まり支え合い、問題を解決することを目的としています。集会のたびに顔を合わせ、仲間同士でそれぞれの症状や窃盗の状況などを打ち明けます。クレプトマニアは理解されにくい病気であり、習慣化した自分では抑えられない窃盗行為を、自助グループ内では戸惑うことなく自己開示できます。

また、クレプトマニアから抜け出して、何年間も窃盗をしていない方からの話も聞くことができます。自助グループの参加は、同じ問題を抱えた仲間との出会いにより孤独感を感じにくくなる効果があります。そして、問題にしっかりと向き合うことで症状の回復を期待できると言えます。

以上のように、クレプトマニアはご本人の意思では窃盗への衝動を抑えることができない精神疾患です。その方の背景を把握し適切な治療を行うこと、ご家族などの周りの方のご理解と協力を得ることで、ようやく回復に向かうことができます。そのために、クレプトマニアの特徴などをしっかり理解しておきましょう。